『王位と品性』イヤリング・ピアス

何を捨て何を得るのか



繊細な造形のクラウンと、深く輝くサテンシリーズのスワロフスキーを耳飾りに仕立てました。スワロフスキーの煌めきを存分に堪能出来るシンプルなデザインです。


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兄は卑劣な人だ。立ち振る舞いこそ高貴であれど、目的のためなら他人を騙すことも厭わず、兄の窮地に手を差し伸べる者すら、時に欺き利用してきた。そうやって他人を蹴落とし、今の地位まで登りつめたのだ。他でもない私自身も、その蹴落とされたうちの一人だ。だが私は、そんな兄を密かに尊敬している。

私とて、王位が欲しくないということはない。私の方があの品性下劣な兄より良い国を作れると思ったことは数え切れないし、権力を得て幸せにしたい人だっている。

だが王の役割とは、良い国を作ることではない。実際に国を動かすのは国民であり、政治を行う宰相たちであり、王ではない。重要な決断は王が行うが、手の回りきらない膨大な雑務こそが国を実際に形作るものである。王の仕事とは政治をして良い国を作ることなどではなく、国がひとつにまとまっていられるよう、絶対的な存在であることだ。そのために必要なのは優れた政治の能力や誰からも好かれる愛想の良さなどではなく、目的のために必要なものだけを淡々と選び続けていく覚悟なのだ。

その覚悟があるのは私ではなく、間違いなく兄の方だ。出来ることなら誰も不幸にしたくないし、誰からも好かれたいと思ってしまう私には、誰に嫌われても自らのやるべきことを曲げることのない兄には、王として到底叶わない。何かを得るためには、何かを捨てなければならないのだ。

兄はある時、私にこう告げた。兄が王位を手に入れた暁には、兄弟の一人たりとも城には残さない。出ていかないのであれば、自らの手で首を落とすまで、と。

聞くところによると、兄弟のひとりが王位を継ぐ時、残りの兄弟の反乱を防ぐため、皆殺しにされることも少なくないのだと言う。表向きでは、兄もそういう残虐なことを述べたように思われるだろうが、私は知っている。王位継承争いに敗れた者が城に残れば、疑いや監視の目で針の筵となり、自由も奪われる。そうなるくらいならば、城から出て幸せになれという兄なりの優しさなのだ。その証拠に、城から出るのであれば命は取らないと兄は言った。反乱を防ぐためと言うには、些か生ぬるいというものであろう。

兄は王位を選び、自由を捨て、安寧を捨て、品性をも捨てた。兄は自分が選べなかったものを、せめて弟である私たちは選べるようあの人なりに考えたのだろう。最後に情を捨てきれなかったことが吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からないが、私が自由を捨てず、品性を捨てずにいられたのは兄のおかげだ。品性あるものとして、その恩を仇で返すようなことだけはしないつもりでいる。